

「試合後のノートをつけなさい」と言われてはいるものの、何をどう書けばいいのかわからない。そんな声をGK専門コーチの現場でもよく聞きます。
この記事では、グラスピアGKアカデミーで実践している「なぜ?」を軸とした試合の振り返り術を紹介します。スマホ動画を使ったセルフレビューの方法から、保護者と一緒にできる対話のコツまで、GK特有の視点でまとめています。
GKのサッカーノートとは?なぜ一般的なサッカーノートでは足りないのか
「失点した」だけ書いても成長しない理由
試合後に「3失点した」「ミスが多かった」と書く。それで終わり。このパターンが一番もったいない振り返りです。
事実の記録と振り返りは違います。振り返りとは「なぜそうなったのか」を自分の言葉で掘り下げ、次の行動に変える作業のことです。
ジュニアアスリートを対象にした研究(Toering et al., 2012)では、振り返り習慣のスコアが高い選手ほど、その後シニアの国際レベルに到達する割合が有意に高かったことが示されています。才能や身体能力だけでなく、「振り返る習慣があるかどうか」が将来の競技レベルを分ける要因の一つというわけです。
グラスピアでも、日々の指導を通して同じことを感じています。試合後に自分のプレーを言語化できる選手は、課題を見つける力が育ちます。「なぜそうなってしまったのか、逆になぜ成功したのかを理解できると、正しいプレーの再現度が上がってくる」というのが、指導の中で見てきた実感です。
GK特有の4大振り返りポイント
GKの振り返りには、フィールドプレーヤーとは異なる4つの観察軸があります。
①失点シーン(技術・判断・ポジション)
失点シーンはただ「やられた」ではなく、「どんなシュートだったか」「自分のポジションはどこにあったか」「飛び出すべきだったか、待つべきだったか」に分解します。技術ミスなのか、判断ミスなのか、ポジショニングのミスなのかで、次の練習で取り組むべき内容が変わります。
②ポジショニング全体
失点シーン以外の場面でも、GKのポジションは常に問われます。「コーナーキックのとき自分はどこにいたか」「相手がカットインしてきたとき、自分のポジションは最適だったか」を試合全体で振り返ります。
③コーチング(声の質・量・タイミング)
GKはチーム全体を後ろから見渡せる唯一のポジションです。「守備の指示を出せていたか」「ラインの設定を声で伝えられていたか」「コーチングのタイミングは早すぎ・遅すぎていなかったか」を振り返ります。
④ビルドアップ参加(フィードの精度・選択)
現代GKにとってフィードやパスの精度も重要な要素です。「どのタイミングでビルドアップに参加したか」「ショートパスとロングボールの選択は適切だったか」を記録します。
グラスピアが教える「なぜ?」の多段階思考
グラスピアの指導で一貫しているのが「なぜ?」を自分で掘り下げる思考習慣です。試合の振り返りでも、この思考を3段階で使います。
たとえば「ポジショニングが高すぎて失点した」という記録があったとします。
- なぜポジションが高かったのか? → 「前半から前に出る意識が強すぎた」
- なぜ前に出る意識が強かったのか? → 「相手FWが速いから早めに対応しようとしていた」
- では次は何をすべきか? → 「相手FWのボールコントロールが落ち着くまで待ってから動く」
「失点した」で止まるのではなく、「なぜ→なぜ→では次は」と掘り下げることで、初めて同じ失点を防ぐための行動が生まれます。グラスピアでは常に「なぜ?」という部分を考えながらプレーすることを重視しており、それを意識し続けることで、次第に無意識でも質の高いプレーができるようになります。

試合直後から始める振り返りの手順
「試合直後」に書き残す。記憶の鮮度を保つ唯一の方法
振り返りで一番大切なのは、書く内容よりも「いつ書くか」です。試合中やハーフタイムにメモを取るのは、プレーへの集中を考えると現実的ではありません。
ここで参考になるのが、エビングハウスの忘却曲線です。19世紀末にドイツの心理学者エビングハウスが発表した研究で、人は復習せずに放置すると、1日後には記憶の多くを失うことが示されています。GKの試合も同じで、その日の夜には鮮明だった場面が、翌朝にはぼんやりとしか思い出せない、ということが実際に起きます。
だからこそ意識したいのが、試合終了からなるべく早いタイミングで書き残すことです。理想は試合当日のうち、遅くとも24時間以内。試合直後は興奮の余韻があり、細かい場面まで最も鮮明に思い出せるタイミングです。
- 失点シーン:その瞬間に自分はどこを見ていたか、何を考えていたか
- うまくいったプレー:何を判断材料にしてその選択をしたか
- 味方への声かけ:いつ、どんな指示を出したか、出せなかった場面はあったか
完璧に書く必要はありません。荒削りで構わないので、思い出せる範囲を残しておく。後日見返したときに記憶を呼び戻せる「立ち返る場所」を持つことが、ノートの本来の役割です。
試合後24時間以内にやること
試合終了から24時間以内が振り返りのゴールデンタイムです。記憶が生き生きしているうちに、以下の手順でノートを仕上げます。
ステップ1:事実の記録(10分以内)
試合の基本情報(日時・対戦相手・スコア)に加えて、4大ポイント(失点・ポジション・コーチング・ビルドアップ)それぞれについて、起きた事実を書きます。評価や判断は後回しで、まず「何があったか」だけを書く。
ステップ2:「なぜ?」を掘り下げる(15〜20分)
事実の記録が終わったら、印象的なシーン1〜2つを選び「なぜ?」を3段階で掘り下げます。全ての場面に時間をかける必要はありません。「一番気になる場面」を1〜2つに絞るのがポイントです。
ステップ3:次の練習への変換(5分)
「では次の練習でやること」を1〜2行で書いて終わりにします。「ポジショニングを意識する」ではなく「コーナーキック時に1歩引いた位置で構える」というように具体的に書くほど、練習での行動が変わります。
1週間後に見返すときのポイント
一度書いたノートを1週間後に見返すと、「あのとき気になったことが次の試合でも出た」「あの課題は改善できた」という気づきが生まれます。
見返しのポイントは「次の試合と照らし合わせること」です。過去のノートと最新の記録を見比べることで、自分の成長と残っている課題が客観的にわかります。

スマホ動画を使ったセルフレビューの方法
撮影のコツ(アングル・タイミング)
試合を動画で撮影して自分のプレーを見直すセルフレビューは、GKの振り返りとして非常に効果的です。映像フィードバックを受けた選手は口頭フィードバックのみの選手より有意にスキル向上が高かったという研究(Atatekin & Kara, 2023)が示すように、自分の動きを「見る」経験には、言葉だけでは届かない効果があります。
撮影の際に意識してほしいポイントは2つです。
アングル:できるだけゴール正面か少し斜め後方から撮影します。GKのポジション・動き出し・手の出し方が確認しやすくなります。スタンドの高い位置から撮影できれば、ポジショニングをより正確に確認できます。
タイミング:相手のコーナーキックやロングボール、1対1の場面など「GKが動く場面」を中心にクリップを残します。スマホのスローモーション機能を使うと、手の出し方や着地のフォームを細かく確認できます。
動画を見るときのチェックポイント(GK目線)
動画を見るときは、「感想を言う」のではなく「観察する」意識を持ちます。
確認する項目は以下の通りです。
- 失点シーン:ボールが入る前の自分のポジションはどこか。動き出しのタイミングは早かったか、遅かったか
- ポジショニング:コーナーキック・クロスのとき、ゴールとボールの関係から見て正しい位置に立っていたか
- 手の出し方:キャッチング・パンチングのとき、ボールへの手の出し方は正しかったか
- コーチング:声を出していた場面が映っているか。声のタイミングは適切だったか
GKのエキスパートと初心者の判断力の違いを調べた研究(MDPI Applied Sciences, 2025)では、エキスパートは蹴り足という一点に視線を集中させて素早く判断することが確認されています。動画で自分の視線・重心・動き出しを観察する習慣は、こうした認知能力を磨く練習にもなります。
動画で気づいたことをノートに落とし込む方法
動画を見た後は「気づいたこと」をノートに追記します。「動画を見て気づいたこと」という欄をサッカーノートに設けておくと、記録しやすくなります。
動画で確認できた事実は、試合直後の記憶よりも正確です。「自分では前に出たと思っていたけど、動画で見たら実はほとんど動いていなかった」というように、主観と客観のズレを埋めることが動画セルフレビューの最大の価値です。

印刷して使える「GKのサッカーノート」テンプレート(小中学生向け)
振り返りの実践用に、A4縦のテンプレートを用意しました。スマホで保存してコンビニ印刷でもよいですし、PDFで一括ダウンロードしてご家庭のプリンターで出力していただいてもOKです。ノートに貼って繰り返し使えるよう、罫線とチェック項目のみのシンプルな構成にしています。
Page 1:試合前ページ+試合後ページ
試合前に「今日の1つの目標」と「特に意識する4つのポイント」を書き、試合後に4大項目(失点・ポジショニング・コーチング・ビルドアップ)の振り返りを記録します。

Page 2:「なぜ?」を3段階で掘り下げる
失点や印象に残ったプレーから1〜2場面を選び、「なぜ?」を3段階で言語化します。書くことではなく、考えることが目的です。最後に「動画で確認したこと」と「来週やる1つだけ」を残します。

PDFダウンロード(2ページまとめて)
印刷用に2ページのPDF版もご用意しました。ご家庭のプリンターで出力してノートに貼ったり、コンビニのネットプリントでお使いください。
📄 GKのサッカーノートテンプレートをダウンロード(PDF・2ページ)
「ノートに書くこと」が目的になっては意味がありません。書きながら、または書き終えてから「次の自分はどう動くか」を頭の中で動かしてみる。これがGKの成長を加速させる振り返りです。
保護者と一緒にできる振り返りの会話術
試合後に絶対に言ってはいけないこと
保護者の皆さんが良かれと思ってかける言葉が、お子さんの振り返りを妨げてしまうことがあります。
指導現場でよく聞く「NGな言葉」はたとえばこういったものです。
- 「なんであそこで動かなかったの?」(責める)
- 「〇〇くんはちゃんと出てたのに」(比較する)
- 「3点も入れられてどうするの」(結果だけで評価する)
サイドから見ていると「あそこで出れば止められた」と見えることがありますが、GKの目線からはまったく違う景色が見えています。縦から見るのか横から見るのかで状況判断は全然変わります。そういった声かけが続くと、お子さんは「失敗すると怒られる」と感じ、自分の判断でプレーできなくなっていきます。
子どもの振り返りを引き出す「5つの質問」
試合後の車の中でお子さんと話すとき、以下の5つの質問を参考にしてみてください。
- 「今日の試合で、一番上手くできたと思う場面はどこ?」
- 「失点したシーン、自分ではどう見てた?」
- 「今日の目標(試合前に書いたもの)は達成できた?」
- 「次の練習で取り組みたいことは何かある?」
- 「今日の試合、楽しかった?」
ポイントは「答えを教えない」こと。お子さん自身が考えて言葉を出すまで、少し待ちます。「そうだね、どうしてそう思う?」と追いかける質問を一つ加えると、子どもの思考がさらに深まります。
グラスピアの指導でも、選手から「なぜそうなってしまったのか」「その時どういう状況だったのか」「何を考えていたのか」を自分の言葉で語れるよう、すぐに答えを渡すのではなくディスカッションを大切にしています。保護者の皆さんも、「答えを聞く人」ではなく「一緒に考える人」として関わっていただけると、お子さんの思考が大きく育っていきます。
失点したときに親ができるサポート
失点した直後、特に子どもが落ち込んでいるときに一番大切なのは「まず受け止める」ことです。
「残念だったね」「悔しかったね」と感情を受け止めた上で、「でも、あの場面でチャレンジしたのはよかったよ」と過程を認める声かけをします。
振り返りの話は、感情が落ち着いてから。帰りの車の中ではなく、夕食後にゆっくり話す方が深い振り返りができることが多いです。
失点はネガティブなことではなく、「次に止めるためのデータ」として捉え直す。この考え方を保護者が先に持っていると、お子さんの振り返りの質が変わってきます。

J下部に進んだGKが実践していた振り返り習慣
ノートより先に大切なのは「なぜ?」を考えること
ここで少し視点を変えたいと思います。
グラスピアでは、サッカーノートを書くことが100%正しいとは考えていません。「ノートに書かなければ覚えられないこと」というのは、果たして本当に大切なことなのかという疑問があるからです。書くこと自体が目的になってしまっている選手も少なくありません。
本来の意義は、書くことでしっかりと記憶し、忘れそうになったときに振り返ることができる「立ち返る場所」を持つことにあります。
実は、三上GKコーチ自身は現役時代にサッカーノートをほぼ書いてきませんでした。大切なことは記憶していましたし、逆に忘れてもいいことは忘れてしまうというスタイルでした。ただ今になって思うと、もし困ったときに自分を見つめ直す場所としてノートがあってもよかったかもしれない、という気持ちもあります。
大切なのは方法の形ではなく、「なぜ?」を考える習慣そのものです。
「気づき」が多い選手ほど伸びる理由
振り返りとメタ認知スキル(計画・振り返り・評価の習慣)を持つ若いアスリートは、1年後の競技パフォーマンスが有意に高いという調査結果(SCIRP, 2020)があります。「今日の試合でこういうことに気づいた」という発見の頻度が高い選手ほど、成長の速度が早くなるわけです。
グラスピアからJリーグの下部組織に進んだ選手たちを振り返ると、共通していたのは「記憶する能力の高さ」でした。特別なノート術があったわけではありませんが、「あの時のプレーはこうすればよかった」と自分自身で考えて振り返るシーンが自然に見られていました。
分からないことがあれば積極的にコーチに質問する。その際もすぐに答えをもらうのではなく、「なぜそうなってしまったのか」「その時自分はどういう状況だったのか」「何を考えていたのか」を一緒に掘り下げていく。J下部に進んだ選手たちの多くは、こうした対話の習慣がしっかりと身についていました。
GKに専門的な振り返り指導が必要な理由
イングランドのプロサッカークラブのアカデミーGK選手を対象にした研究(Mcgreary et al., 2024)では、「声に出しながら考える(Think Aloud)」という振り返り手法を取り入れたところ、選手のセルフモニタリング能力と振り返りの質が向上したことが確認されています。
GKは試合中に高度な判断を瞬時に繰り返すポジションです。その判断の根拠を「自分の言葉で言語化する訓練」が、次の試合での判断精度を高めることにつながります。サッカーノートはその言語化訓練の場の一つです。
ただし重要なのは、ノートを書くかどうかではなく、「なぜ?」という問いを自分の中に持ち続けることです。ノートが合う選手はノートを書く。別の振り返り方が合う選手は、その方法を選ぶ。自分のスタイルに合わせて選択すればよく、「サッカーノートを書くこと=正解」とは限りません。形より中身、中身より習慣です。

まとめ:振り返りの本質は「なぜ?」を考えること

サッカーノートは、「今日の自分が次の試合の自分に伝えるメッセージ」です。失点シーンの悔しさも、うまくいったセービングの感覚も、時間が経てば薄れていきます。その瞬間に気づいたことを言葉にして残しておくことが、成長の積み重ねになります。
ただし、ノートはあくまでも手段です。大切なのは「なぜ?」を自分で考える習慣そのもの。その思考が身につけば、ノートがなくても試合中に自分のプレーを観察し、次の行動を修正できる選手になっていきます。
GKはチームで唯一、試合全体を後ろから見渡せるポジションです。ポジショニング・コーチング・ビルドアップ・失点シーンと、フィールドプレーヤーとは異なる4つの軸で振り返ることで、GKとしての判断力と自己調整力が育っていきます。
保護者の皆さんには、「子どもの振り返りを引き出す聞き役」として関わっていただけると、お子さんの成長がさらに加速します。責めるのではなく、「どう思う?」と問いかけるだけで、子どもは自分で考え始めます。
お子さんが試合後に自分の言葉でプレーを語れるようになったとき、きっとその成長を実感していただけるはずです。
グラスピアGKアカデミーでは、試合の振り返り習慣も含めて、GKとしての成長を総合的にサポートしています。「なぜ?」を自分で考えられるGKに育てることを大切にしており、その土台として指導現場での対話と振り返りを日々実践しています。
GKとして本格的に成長したいお子さんは、グラスピアGKアカデミーの入会セレクションに挑戦してみてください。
