

子どもの試合をスマホで撮る保護者は増えています。
あとで見返せるように。良かったプレーを残せるように。成長を感じられるように。そう思って撮っているはずなのに、いざ動画を見ると、なぜか失点シーンばかり止めてしまうことがあります。
「今のは前に出られたんじゃない?」
「なんでそこに立っていたの?」
「もっと早く反応できなかった?」
保護者としては、責めたいわけではないと思います。上手くなってほしい。次は守ってほしい。そう思うからこそ、気になった場面を伝えたくなります。
でも、GK本人からすると、試合動画が「怒られる時間」になってしまうことがあります。
特にGKは、失点が映像に残りやすいポジションです。フィールドプレーヤーの小さなミスは流れていっても、GKのミスや失点はスコアに直結します。だからこそ、動画の見返し方を間違えると、子どもは「また失点を責められる」と感じてしまいます。
GKの試合動画は、失点を責めるためではなく、次に守るための材料です。
この記事では、小学生から中学生のGKを持つ保護者に向けて、試合動画の見方を整理します。高度な動画分析ツールの話ではありません。家庭でできる、10分以内の親子の振り返り方です。
結果ではなく過程を見る保護者の関わり方については、J下部に進んだGKの親がやっていた5つのこと|プロを目指す家庭の共通点 もあわせてご覧ください。
GKの試合動画を失点チェックだけにしていませんか?
試合動画を見るとき、一番やりがちな失敗は、最初に失点シーンを見返すことです。
もちろん、失点シーンを見ないという意味ではありません。失点には次に守るためのヒントがあります。グラスピアでも、失点をミスで終わらせず、どう改善すればよいかを考えることを大切にしています。
ただ、最初から失点シーンだけを見ると、親子の空気が重くなります。
GK本人は、すでに悔しい思いをしています。「止めたかった」「守りたかった」と思っているのは、誰よりも本人です。そこに動画を止めながら大人が正解を言い続けると、子どもは自分で考える前に、防御する姿勢になってしまいます。
動画を見る目的は、子どもを納得させることではありません。
子どもがその場面で何を見ていたのか。何を狙っていたのか。どんな判断をしようとしていたのか。それを一緒に整理することです。
JFAのナショナルGKキャンプでも、映像を使ったプレー分析やディスカッション、目標設定が行われています。専門的なGK育成の場でも、映像は「見て終わり」ではなく、話し合い、次の行動につなげるために使われています。
家庭での動画振り返りも同じです。
動画は、失点を責めるための証拠ではありません。次に守るための会話を始める材料です。
実際にグラスピアでも、試合動画を一緒に見返したことで、本人が気づいていなかった視点を持てるようになったケースがあります。
ただ落ち込んで終わるのではなく、「なぜ失敗したのか」を分析して考えられるようになる。良かったプレーについても、「ここが良かったから止められたんだ」と分かることで、自信につながる。
そうやって動画を見返す目的が変わると、次の練習でもその部分を意識するようになり、取り組む姿勢が変わっていきます。

試合動画を見る前に決めたい3つのルール


試合動画を見返す前に、親子でルールを決めておくと、振り返りが説教になりにくくなります。
ルール1: 最初は良かったプレーから見る
最初に見るのは、失点シーンではなく良かったプレーです。
ナイスセーブでも、良い声かけでも、正しい立ち位置でも構いません。結果として目立たなかったプレーでも、「準備が早かった」「味方に声をかけていた」「こぼれ球にすぐ反応した」など、GKには評価できる場面があります。
最初に良かったプレーを見ることで、子どもは「今日は何ができたのか」を確認できます。
できたことを確認してから課題を見る。この順番が大切です。
過去のインタビューでも、三上コーチは保護者の関わり方として、結果ではなく過程を見てあげること、チャレンジを認めることの大切さを話しています。動画も同じです。止めたか、止められなかったかだけではなく、どんな準備をしていたかを見ることが必要です。
ルール2: 1回10分で終える
動画は、長く見ればよいわけではありません。
1試合まるごと見返すと、情報量が多すぎます。保護者も子どもも疲れます。途中から、良い振り返りではなく、反省会のようになってしまうこともあります。
サッカー指導における映像活用の研究でも、映像には学習を助ける可能性がある一方で、見せ方や情報量には注意が必要だと整理されています。
家庭では、まず10分で十分です。
見る場面は3つだけ。
- 良かったプレー
- チャレンジしたプレー
- 次に試したいプレー
この3つを見たら、そこで終えるくらいで構いません。
動画を全部見返すことより、次の試合で何を1つ試すかが決まることの方が大切です。
ルール3: 親は答えを言い切らない
保護者がサッカー経験者であっても、外から見ている景色とGK本人が見ている景色は違います。
横から見れば「前に出られた」と思う場面でも、GKの正面から見ると、相手のスピード、味方の位置、ボールの転がり方が違って見えます。
だから、親が最初から「ここは出るべきだった」と言い切らない方がよいです。
代わりに聞いてみてください。
「このとき、何を見ていた?」
この一言だけで、動画の時間は説教ではなく対話になります。

GKの試合動画で最初に見る3場面
試合動画を見返すときは、場面を絞ります。
おすすめは、次の3つです。
1. 良かったプレー
最初に見るのは、良かったプレーです。
ここで大事なのは、ビッグセーブだけを探さないことです。GKの良いプレーは、派手なセーブだけではありません。
- シュートを打たれる前に良い位置に立てていた
- 味方に早く声をかけていた
- 相手のパスに合わせて準備できていた
- キャッチした後、次のプレーにすぐ移れた
- 失点後に下を向かず、次のプレーに入れた
こうした場面も、GKにとっては大切な成長です。
特に小学生年代では、「守れたかどうか」だけでなく、「準備できていたか」を見てあげることが大切です。
2. チャレンジしたプレー
次に見るのは、チャレンジしたプレーです。
結果として成功していなくても構いません。
前に出ようとした。声を出そうとした。ビルドアップに関わろうとした。相手の動きを見て判断しようとした。
こうしたプレーは、成功失敗だけで評価しない方がよいです。
グラスピアでは、失敗しても改善すればよい、失敗を失敗で終わらせないという考え方を大切にしています。動画でも、チャレンジしたプレーを見つけてあげると、子どもは次も挑戦しやすくなります。
「ここ、チャレンジしていたね」
この一言があるだけで、動画の時間はかなり変わります。
3. 次に試したいプレー
最後に見るのは、次に試したいプレーです。
ここで大切なのは、課題をたくさん出さないことです。
「次はポジションも、声も、キャッチも、キックも直そう」となると、子どもは何をすればよいか分からなくなります。
1つで十分です。
- 次は、相手がシュートを打つ前に一度ポジションを確認する
- 次は、味方に早く声をかける
- 次は、止めた後のこぼれ球まで準備する
- 次は、失点後にすぐ顔を上げる
動画の最後に「次はこれを1つやってみよう」と決められれば、それだけで良い振り返りです。
最初に見る3場面
失点シーンへ行く前に、親子でこの順番を確認します。
失点シーンは結果ではなく4つのポイントを見る


失点シーンを見るときは、止めたか止められなかったかだけで判断しないようにします。
三上コーチが避けてほしいと考えているのは、「止められなかった」「ミスした」という結果だけを振り返ったり、子どもに伝えたりすることです。
もちろん、失点は悔しいものです。ミスがあれば改善する必要もあります。ただ、結果だけを見ても、次に何を変えればよいのかは見えてきません。
大切なのは、その瞬間に何を考えていたのか、何を予測していたのか、どんな準備をしていたのかという過程を見ることです。
見るポイントは4つです。
1. ボールが来る前の準備
GKは、ボールが来てから始まるポジションではありません。
相手がシュートを打つ前、クロスを上げる前、スルーパスを出す前から準備が始まっています。
動画を見るときは、失点の瞬間だけでなく、その5秒前から見てみてください。
- 相手はどこを見ていたか
- 味方の守備はどこにいたか
- GKは構える準備ができていたか
- ボールだけを見ていなかったか
失点の原因は、シュートの瞬間だけにあるとは限りません。
その前の準備にヒントがあることが多いです。
2. 立ち位置と守る範囲
次に見るのは、立ち位置です。
ただし、保護者が「ここに立つべき」と断定しすぎる必要はありません。GKの立ち位置は、相手、味方、ゴール、ボールの場所によって変わります。
大切なのは、子どもが自分の立ち位置を説明できるかどうかです。
「このとき、なんでそこに立っていた?」
こう聞くと、子どもの考えが見えてきます。
何も考えていなかったのか。相手のシュートを警戒していたのか。味方のカバーを意識していたのか。答えによって、次の課題は変わります。
3. 声を出すタイミング
GKは、後ろから全体を見られるポジションです。
動画では、声が入っていないこともあります。それでも、身振りや味方との距離感から、声をかけようとしていたか、味方に情報を伝えられていたかを見返すことができます。
声は、ただ大きければよいわけではありません。
大切なのは、味方が次のプレーをしやすくなるタイミングで、必要な情報を伝えることです。
動画を見ながら、こう聞いてみてください。
「この場面、味方に何か伝えられそうだった?」
この質問は、GKの頭の中を整理するきっかけになります。
4. 止めた後、失点した後の1秒
GKの動画で見てほしいのが、プレー後の1秒です。
止めた後にこぼれ球へ反応できているか。キャッチした後に次のプレーを見ているか。失点した後に顔を上げられているか。
GKは、1つのプレーで終わりません。
シュートを止めても、こぼれ球があります。失点しても、試合は続きます。だから、動画では「その後」を見ることが大切です。
No.43の判断力の記事でも触れたように、GKは観て、予測して、決めて動くポジションです。その流れは、プレーが終わった直後にも続いています。
GKが何を見て判断するかを整理する考え方については、GKの判断力の鍛え方|試合で迷うキーパーが観るべき順番 もあわせてご覧ください。

保護者が動画を見ながら聞くべき質問

動画を見ながら、保護者が技術的な正解を言い続ける必要はありません。
むしろ、子どもの言葉を引き出す方が大切です。
イングランドのサッカーアカデミーGKを対象にした研究でも、選手が考えていることを言葉に出しながら振り返る取り組みが、自己調整や振り返りの質を高める可能性が示されています。
家庭で難しいことをする必要はありません。次の4つを聞ければ十分です。
質問1: 「このとき、何を見ていた?」
これは一番大切な質問です。
GKのプレーは、外から見える動きだけでは分かりません。何を見ていたかによって、その判断の意味が変わります。
ボールだけを見ていたのか。相手の足元を見ていたのか。味方の位置を気にしていたのか。ゴール前のスペースを見ていたのか。
子どもが答えられなければ、それも大切な気づきです。
「じゃあ次は、相手と味方の位置も見てみよう」
このように、次に見るものを1つ決められます。
質問2: 「このGKは、何を考えていると思う?」
試合動画を見ながら、三上コーチは選手本人に対して、あえて少し引いた聞き方をすることがあります。
「この時、このGKは何を考えていると思う?」
「どこを見ていると思う?」
「その結果、何を考えていると思う?」
自分のプレーなのに、あえて「このGK」として見ることで、少し冷静に場面を分析しやすくなります。
これは、失点した本人を責めるためではありません。動画の中のGKが何を見て、何を予測し、何を選ぼうとしていたのかを整理するためです。
その子が持っている基準を確認することで、GKコーチと選手の基準をすり合わせることができます。
「この準備は良い準備なのか」
「このポジショニングはどう見えるのか」
「どこを見られていたら、次の判断が変わったのか」
こうした会話を重ねると、コーチと選手が同じ基準、同じ目線で試合を見られるようになっていきます。
質問3: 「何を狙っていた?」
結果が失敗でも、狙いがあるプレーは次につながります。
前に出ようとしたのか。待とうとしたのか。キャッチを狙ったのか。弾くつもりだったのか。味方につなげようとしたのか。
狙いを聞くことで、子どもは自分のプレーを言葉にできます。
グラスピアでは、なぜそうなったのか、なぜ成功したのかを理解することを大切にしています。成功も失敗も、理由が分かれば再現や改善につながります。
質問4: 「次は何を1つ試す?」
最後は、次に試すことを1つだけ決めます。
ここで大人が課題をたくさん出さないことが大切です。
子ども自身に選ばせると、次の試合で意識しやすくなります。
「次は構える前に相手を見る」
「次は味方に1回早く声をかける」
「次は失点してもすぐ顔を上げる」
こうした小さな1つで構いません。
動画を見た後に行動が1つ決まれば、その振り返りは成功です。
動画を撮るときのコツ
動画の見返し方と同じくらい、撮り方も大切です。
きれいな映像である必要はありません。ただ、GKの振り返りに使うなら、いくつか意識したいポイントがあります。
ボールだけをズームしすぎない
試合動画でありがちなのが、ボールだけを追い続ける撮り方です。
もちろん、ボールは大切です。ただ、GKの振り返りでは、ボールの周りだけでは情報が足りません。
GKがどこに立っていたか。味方の守備がどこにいたか。相手がどこへ走っていたか。ゴール前にどんなスペースがあったか。
これらを見るためには、少し引いた画角が必要です。
GKと守備全体が入る画角を意識する
可能であれば、GKと守備全体が入るように撮ります。
毎回完璧に撮る必要はありません。保護者も試合を応援しながら撮っています。大切なのは、動画をあとで振り返りに使うなら、GKだけ、ボールだけに寄りすぎないことです。
GKは、ボールだけではなく全体を見て判断します。
だから動画も、できる範囲で全体が見える方が役に立ちます。
全部見返さず、必要な場面だけ切り出す
撮った動画をすべて見返す必要はありません。
スマホで時間だけメモしておく。良かった場面だけお気に入りに入れる。失点シーンも、すぐ見ないで後から落ち着いて見る。
このくらいで十分です。
動画を管理することが目的になってしまうと、続きません。
目的は、次のプレーをよくすることです。
子どもが動画を見たくないときは無理に見せない
試合動画は便利ですが、子どもが見たくないときもあります。
特に失点が多かった試合、大事な試合で負けた日、本人が落ち込んでいる日は、無理に見せない方がよいこともあります。
失点をしたとき、三上コーチはその場で細かく声をかけるより、ハーフタイムや試合後に振り返ることを大切にしています。ネガティブなまま次のプレーに入るより、まず切り替えることが大事だからです。
家庭でも同じです。
子どもが落ち込んでいる日に、すぐ動画を開いて「ここを見よう」と言うと、気持ちが追いつかないことがあります。
そんなときは、動画を見なくても構いません。
「今日はよく頑張ったね」
「落ち着いたら、良かったプレーを1つだけ見よう」
そのくらいで十分です。
また、動画よりノートが合う子、会話の方が合う子、翌日に見た方が整理できる子もいます。No.34の試合ノートの記事でも触れたように、振り返りの方法は1つではありません。
大切なのは、子どもが自分のプレーと向き合える形を選ぶことです。
動画だけでなくノートで振り返る方法については、GKのサッカーノートの書き方と振り返り術|「なぜ?」を習慣にする方法 もあわせてご覧ください。
まとめ|動画は、次のプレーを考えるために見る
GKの試合動画は、失点を責めるためのものではありません。
次に守るために、何を見て、何を考え、何を試すかを整理するためのものです。
保護者ができることは、技術的な正解をすべて教えることではありません。
まず良かったプレーを見る。チャレンジしたプレーを認める。失点シーンを見るなら、結果ではなく準備、立ち位置、声、次の1秒を見る。そして最後に、次の試合で試すことを1つ決める。
それだけで、動画の時間は親子の反省会ではなく、成長の時間になります。
次の試合後は、全部見返さなくて大丈夫です。
良かったプレーを1つ。チャレンジしたプレーを1つ。次に試したいプレーを1つ。
まずは、その3場面だけ一緒に見てみてください。
そして、こう聞いてみてください。
「このとき、何を見ていた?」
GKの成長は、そこから始まります。